なぜ、地震で家が燃えても火災保険はもらえないのか?

先日、東日本大震災の数日後に起きた火災で自宅を失った宮城県の住民が、保険会社に火災保険金の支払いを求めた裁判がありました。本来、地震による火災では保険はおりないのですが、地震からしばらく経ってから出火したため、火災の原因は地震ではないと訴えたものです。しかし、住民の主張は受け入れられず、火災保険金は支払われないという判決でした。

  震災で火災は地震と関連…保険金請求の住民敗訴

東日本大震災の3~4日後に起きた火災で自宅を焼失した宮城県気仙沼市の住民7人が、地震免責条項を理由に火災保険金の支払いを拒否した損害保険会社などに計約1億5700万円の保険金支払いを求めた訴訟で、仙台地裁気仙沼支部(一原友彦裁判官)は14日、請求を棄却する判決を言い渡した。

一般に地震による火災で損害が起きた場合、火災保険金の支払いを免除する地震免責条項が適用される。原告側は「火災は3~4日後に発生しており、地震と関連がない」と主張。しかし、判決で一原裁判官は、「津波で被災した車両の電気系統の不良によって出火した蓋然性が有力」などとして、出火と地震の因果関係を認め、「津波で生じたがれきによって消火活動が阻害された」と地震と延焼との関連も指摘した。

(2014年10月14日 読売新聞)

なぜ、地震による火災では保険がおりないのか?

一般的な火災保険には、「地震免責条項」というものがついていて、地震が原因で起きた火災には、保険がおりません。

でも、そもそも「火災保険」という名がついているのに、なぜ、地震によって起きた火災だと保険をもらえないのか? これは、日本が地震大国であることが関係しています。

地震保険と災害について研究している林 弘巳氏の論文(1996年)によると、日本は国土のほとんどが地震帯の上にあり、いざ地震が起こると想定を超えた損害が出やすいため、民間の保険会社がすべての保険金を出すのは難しいとためとしています。

保険は、統計学をもとに人々からかけ金を集めて、被害が起きたときに保険金を払えるように運営しています。普通の火災なら過去のデータから「1,000件のうち、1年に火事になるのは1件」というように、あらかじめ予測を立てて、かけ金を設定しています。

しかし、地震などの天災はいつ、どれくらいの規模で起こるかを予測できません。このため、いざというときのために集めておく保険のかけ金を正しく設定できないのです。もし、地震で莫大な額の保険金を無理に出して、保険会社が潰れてしまっては、ふつうの火災まで保険が使えなくなってしまいます。そのため、地震や津波は火災保険の対象にできないというわけです。

地震からしばらく後の火災でも、保険はもらえない

今回、住民は「火災は震災から3~4日後に発生しており、地震と関連がない」、よって火災保険金は支払われるべきと主張していました。しかし裁判では、火災は津波に遭った車が水にぬれたことで電気系統から出火したものと推定し、火災保険がおりる対象にはならないとしました。

同じような裁判は、平成5年に北海道の奥尻島で起きた地震や、平成7年の阪神・淡路大震災などでも起きています。いずれも、火災が地震と因果関係があるとして、保険金は支払われませんでした。

大地震が発生すると、建物が倒壊し、道路がふさがれ、ライフラインが絶たれ、携帯電話もつながらなくなります。この混乱の中で火災が起きたとき、どこから出火したかを見極める余裕は、おそらく誰にもないでしょう。また鎮火後に立証しようとしても、がれきにまみれた焼け跡で、地震以外によって火災が起きた証拠を探すのは極めて難しいです。

このため損害保険会社では、地震によって生じた一連の火災をすべて保険の対象外としており、裁判でもそれが認められています。

ところで、生命保険も地震のときには、原則として保険金がおりないことになっています。しかしながら実際には、保険会社が個別に判断して保険金を支払うケースがあります。生命保険と損害保険で、同じ地震に対する扱いが違うのは、おそらく火災保険の方が生命保険よりも、各契約者がかけている保険金が高額なためと考えられます。

しっかり備えるなら、地震保険は必須

火災保険は、地震のときにはまったく使えないわけではありません。火災保険には「地震火災費用保険金」というものがついています。地震や津波による火災で建物が半焼以上するか、保険の対象である家財が全焼した場合に、火災保険金額の5%が受け取れるものです。とはいえ、仮に3,000万円の火災保険をかけていたとしたら、もらえるのは150万円。地震や火災で半分以上が焼けてしまった家を直すには、充分とはいえません。

自分の家をしっかり再建するなら、地震保険を別途つけておくのが安心です。地震保険をセットすると、その分かけ金は高くなってしまいますが、地震大国である日本に住む以上は、多少の負担がかかってもかけておくべきです。

もちろん、地震保険だけでは充分ではないこともあります。地震保険は火災保険の保険金額の30%~50%までしか保険金額を設定できず、建物は5,000万円、家財は1,000万円までという上限もあります。また、損害の規模によっておりる保険金も変わるので、かけた金額が必ずもらえるわけではありません。

それでも、地震保険の運営には国が関わっており、大きな被害が出ても多額の保険金を準備できるようになっています。ほとんど保険がおりない火災保険よりは、地震保険の方が、被災後の生活再建には役立つでしょう。

火災保険を契約するときには、印を押す場所に注意を

現在、火災保険を新たに契約するときには、地震保険が原則として自動的にセットされる「自動付帯」になっています。ですが、希望すれば外すこともできます。火災保険の契約書には「地震保険のご確認欄」という欄があり、「地震保険は申し込みません」などの文言が書かれています。ここに印鑑を押すと、地震保険を外すことができます。

実は、この印鑑が落とし穴になることがあります。火災保険は自宅を新築したり購入したりするときに、住宅ローンなどと一緒に契約する人が多いのですが、このときには実に多くの書類に印鑑を押さなければなりません。他の書類と一緒にまとめて印鑑を押すと、そのつもりがないのにうっかり地震保険を外してしまうことがあります。

過去の裁判では、火災保険の契約者が、充分な説明をされないまま地震保険を外す欄に印を押してしまったとして、保険会社に損害賠償を請求した例もありました。しかし、認められないケースが多いです。

いま、地震保険には半数以上の人が加入しています。損害保険協会によると、地震保険をかけている人の割合は、火災保険に入っている人の58.1%(2013年度)で、10年前の34.9%から大幅に増えています。となると、これからは「地震保険がついてないなんて聞いていなかった!」といっても、主張は通らないでしょう。火災保険を契約するときに地震保険をつけるなら、印鑑を押す場所を間違わないように要注意です。

まとめ 保険をかけるときは、しっかり意味を理解して

保険に契約するときの書類は、文字が細かく専門用語が羅列されていて、全部にじっくりと目を通すのはかなりしんどいものです。でもそこに押す印鑑ひとつで、いざというときに人生を左右するおそれもあります。

家を守るための「火災保険」は、それだけでは万能ではありません。保険といえども、被災後の暮らしを必ず保障してくれるわけではありません。どこまでがカバーされて、どこからがされないのか、契約するときにはしっかり確認しておきましょう。

参照先:損害保険協会,第一経大論集

photo credit: Shazster via photopin cc

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マネーステップオフィス編集部
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