行方不明の家族の保険金は「死亡診断書」がなければもらえない 御嶽山不明者に証明が発行されます

長野県は、9月27日の御嶽山の噴火に巻き込まれ安否がわからなくなっている方々について、「死亡」を証明する書類を発行することを決めました。死亡を証明する書類は、役所に死亡届を提出する際や、生命保険を受け取るときに必要になるものです。

証明がないと「死亡」は認められない

長野県が、御嶽山の噴火に見舞われたと思われる行方不明者について、「死亡」を証明する書類を発行することを決めました。家族の希望があれば発行するもので、役所への死亡届や、生命保険などの死亡保険金の受け取りに使うことができます。

市区町村で死亡届を出すときには、原則として医師が作成した死亡診断書や死体検案書が必要です。また、生命保険の死亡保険金を受け取るためにも、死亡診断書が必要です。しかし、災害に見舞われるなどして行方不明になっている場合は、死亡診断書などがないため、これらの手続きができません。

法律では、遺体が見つからないなどの理由で死亡診断書などがない場合は、死亡を証明する書類で代用できるように規定しています。今回、長野県が発行する証明書があれば、行方不明の方が死亡したものとしてさまざまな手続きができるようになります。

行方不明のままだと保険を解約できない

行方不明のご家族がいる人にとって、大切な人が亡くなったと証明されるのはとてもつらいことでしょう。いつか帰ってくると信じていたい気持ちもあるのではないかとお察しします。しかし、行方不明のままにしておくと、残されたご家族に不都合なこともあります。

先日、お父さまが出かけたきり2年以上行方不明になっている方からご相談を受けました。国内旅行に出かけたお父さまは、旅の途中で連絡がつかなくなりました。警察に捜索願を出すも見つからず、2か月後に山の中で乗っていた車と荷物だけが発見されたそうです。ご家族はこの状況から、お父さまがお亡くなりになったものとして、お持ちだった銀行の口座や保険などを解約しようとしたそうです。ところが、「死亡届」を出していないため、解約ができなかったというのです。

「行方不明」になっていると、法律上ではその方は生きているとみなされます。ですから、銀行の通帳やキャッシュカード、保険の契約も有効です。キャッシュカードは本人以外は使えませんし、もし亡くなったことが確定すると相続財産になるので、原則として家族は勝手に預金を引き出すことができません。また、行方不明になった方が保険に入っていたら(保険の対象となる被保険者やかけ金を払う契約者だった場合)、家族は死亡保険金を受け取るどころか、保険のかけ金を払い続けなければなりません。行方不明になると、家族にはお金の面で負担がかかってしまうのです。

行方不明の人の預金は引き出せない?

銀行の預金口座の名義人が亡くなった時には、預金は相続財産として相続人で分けます。この手続きが終わるまで、残高は引き出せません。しかし、災害などで預金の名義人本人が行方不明になってしまったうえ、生活資金が必要、といったケースでは、親や子ども、配偶者などの親族の方であれば一定の条件で引き出せることがあります。銀行や、行方不明になった状況によって扱いが違いますので、まずは預入先に相談してみると良いです。

保険金をもらうには時効がある

生命保険を家族が解約しようとするときには、契約者本人の委任状が必要です。しかし行方不明になってしまっていては委任状ももらえません。銀行口座からの引き落としでかけ金を払っている場合には、残高が足りなくなって3ヶ月以上引き落としができなくなると、保険会社から確認が入り、解約手続きを取ることもありますが、原則として契約は生きたままです。また、行方不明になった方が保険の対象となる被保険者だった場合は、死亡保険金も受け取れません。

保険金を受け取るには、「時効」があります。保険会社や保険の種類によって違いますが、保険金を受け取る事由が発生してから3年~5年が一般的です。時効を過ぎてから保険金を請求しても、受け取れないことがあります。

一方で、行方不明になった方の「死亡」を認定してもらうには、7年かかります。「失踪宣告」といわれるもので、行方不明になって7年間が経ってから、家庭裁判所に申し立てをすると、事実上の死亡として法律上で亡くなったことが認められます。(沈没した船に乗っていた人などでは、1年間で失踪宣告されることもあります)。

失踪宣告がされると、保険金がおりますが、それまではかけ金を払わなければなりませんし、その間に時効が来てしまうこともあります。そこで、どうしても解約しなければいけない場合には、家庭裁判所で「財産管理人」という人を選定してもらいます。財産管理人になると、行方不明になった方の保険を解約できます。

さいごに

御嶽山には厳しい冬が訪れ、10月15日には初めての降雪が観測されました。冬山での捜索活動はとても難しく、救助にあたる隊員の安全が確保できないおそれがあるため、10月16日で全面的な捜索活動が終了しました。行方不明の方が見つかる見通しは、しばらくたたないことになります。

今回、死亡の証明書が発行されることで、残されたご家族が少しでもできることを進められる助けになることを願います。

御嶽山の噴火災害で被災された皆さまには、心よりお見舞いを申し上げます。お亡くなりになられた方のご冥福をお祈りするとともに、ご遺族の皆さまに謹んでお悔やみを申し上げます。そして、冷たい雪に包まれた山に眠るであろう方々に、一日も早く温かい春が訪れることを祈るばかりです。

  御嶽山不明者、家族意向で「死亡」証明発行へ 長野県
御嶽山(おんたけさん、長野・岐阜県境、3067メートル)の噴火に巻き込まれたとみられる安否不明者について、長野県は、家族の意向に応じて「死亡」を証明する書類を発行することを決めた。県関係者への取材でわかった。死亡届を提出する際に必要な死亡診断書や死体検案書に代わるもので、家族が相続や死亡保険金の受け取りの手続きを円滑に進められるようにする。

市区町村に出す死亡届には通常、医師が作成する死亡診断書や死体検案書を付ける必要がある。戸籍法では、遺体が見つからないなど、やむを得ず死亡診断書などがない場合は、死亡を証明する書類で代用できると規定している。

(2014年11月9日 朝日新聞)

参照先:全国銀行協会生命保険文化センター

photo credit: Storm Crypt via photopin cc

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マネーステップオフィス編集部
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