保険ショップは本当に中立なのか? 金融庁が実態調査を開始しました

金融庁が保険ショップの実態調査を開始しました。保険ショップとは、複数の保険会社の商品を取り扱う保険の乗り合い代理店のことです。複数の商品の中から、販売手数料の高い商品に偏って販売していないかを調査します。

金融庁は保険ショップに対して、契約者が払う保険料のうち、販売手数料をいくら受け取っているのかを月内に報告するように求めました。販売手数料が高すぎる等の問題が見つかれば、是正を求めることにしています。

かけ金の大部分は手数料という保険もある

保険のかけ金は主に3つの要素で成り立っています。

(1)亡くなった人に払う保険金にあてる資金
(2)営業にかかるコストにあてる資金
(3)保険会社が運用をして得られる利益

(1)と(2)はかけ金が高くなる要素、(3)は安くなる要素です。安くなる要素があるのは意外に思われるかもしれませんが、イメージとしては銀行の定期預金の金利に似ています。利息を利払い日が来てからもらうのではなく、あらかじめかけ金を払う時に割り引いてもらうしくみです。

では、わたしたちが保険に契約して払うかけ金のうち、いくらが(1)の保険金にあてられて、いくらが(2)の営業のコストになって、どれくらい(3)の利益分が割り引かれているのか? その内訳が気になるところです。

結論からいうと、(1)の保険金部分と(2)のコスト部分は消費者からは見分けがつきません。(3)の予定利率は2014年4月現在、1%と決まっているので、原則としてその分を織り込んでかけ金が設定されているのですが、払ったかけ金がどう使われているかはほとんど公開されていません。

しかし、保険の中には、かけ金のうち大部分がコストにあてられるものがあります。コストというのは、広い意味ではお客様への案内書類の作成や発送、広告費、保険会社の従業員の給料などです。これをより細かくわけていくと、大部分が保険を売った営業マンの報酬にあてられるものもあります。

「商品ラインナップが多い=中立」ではない

お客様は同じように毎月1万円のかけ金を払っても、売る商品が違えば営業マンが受け取る報酬は百円程度から数千円までと、かなりばらつきがあります。特に、契約して1年目のかけ金は、大部分が営業マンの報酬に回るしくみになっています。となると、売る側はつい自分の実入りが多くなる商品をすすめたくなってしまうものです。すると、複数の保険会社の商品を扱っていても、お客様に提案する商品がだんだんと特定の商品に偏ってきてしまうことがあります。今回の金融庁の調査は、その実態を明らかにして、歪みを正す第一歩になるでしょう。

保険ショップの豊富なラインナップは「たくさんの商品から、お客様に合ったものをご提案できる」という強みになっています。でもそれは同時に「お客様に合ったものがいくつかあるうち、営業マンの報酬がより多いものを優先的に勧められる」という武器にもなります。商品ラインナップの豊富さは、必ずしも中立の証ではなく、諸刃の剣なのです。

利益率の高い保険は、飲食店のドリンクと同じ

私自身、かつて保険を販売していた立場から正直に言うと、同じかけ金の保険を売るなら、報酬の高いものが売れたほうがやはりうれしいです。保険を売ることで食べている人にとっては、手数料部分の少ない保険ばかりを売るわけにいかないのが現実です。

他の業態を見ても、利益率の高い商品と低い商品をうまく併用してもうけています。多くの飲食店は原価率の高いフードメニューを、利益率の高いドリンクで補っています。ドリンクを注文しなければ食事ができないレストランがあったり、居酒屋では有無をいわさずお通しが出てくることをみれば、ビジネスにおいて利益率が高いものと低いものが混在すること自体はなんら問題はないはずです。

問題なのは、保険業界がいわゆる「原価率」を明らかにしていないことです。そして、お客様が知らないのをいいことに、原価率の低い、つまり売る側のもうけが多くなる保険ばかりを売ることです。これは、ハンバーガーを食べたくてファストフード店に入ったお客様に延々とコーラを出し続けるのと同じです。しかし食べ物なら、そんなことをしたらすぐにばれてしまうものの、保険は実態のない商品なので、お客様の側から見ると、自分の入った保険がハンバーガーなのかコーラなのかは見分けがつかないのです。

手数料が低くても成り立つビジネスが必要

私たちが買い物をするとき、いちばん幸せになれるのは、自分の意志で自分の納得した価格で、かつ満足のいくクオリティの商品を買えた時です。でも「満足」の軸は、人によってさまざまです。1杯のコーヒーでひといきつきたいとき、100円の缶コーヒーで満足する人もいれば、ブランド物のカップについでくれる喫茶店で1,000円払って至福の時を得る人もいます。保険も、安さを追求して最低限の保障を買うことで満足する人がいれば、丁寧なコンサルティングや将来の汎用性に価値を置いて選びたいという人もいます。

「中立」を謳って保険を売る立場に求められるのは、十人十色のお客様のニーズに合った商品を提案することです。当たり前のことですが、それができていれば、多少の人気、不人気の差は出るにせよ、極端に特定の商品ばかりが売れることはないはずです。しかし、残念ながら偏った営業をしている営業マンなり、保険ショップなりがいるのが事実です。

今回の金融庁の調査は、当面は保険ショップが対象です。しかし、今後は個人の保険代理店や、保険会社にも広がる可能性もあります。保険業界全体として、利益率の高い商品ばかりは売れない流れになっていくと思われます。これからは、手数料の高い保険が売れなくても、ビジネスが成り立つスキームを構築していかなくてはならないことになるでしょう。

保険を売る側に、見えない原価率に甘んじて安易に利益率を上げる体質ができてしまいがちなのは事実です。でも個人的には、それによって買う側の「保険不信」が高まりすぎていると感じることもあります。お金を支払った価値を形や実感で得られない商品をビジネスにするのはとても難しいことですが、保険ショップや保険を売る側には、お客様の暮らしに真の安心や満足を提供できるサービスを展開してほしいと願います。それを具現化することが、保険業界、そして私も含めお金の仕事に携わる者に求められる課題だと考えます。

※わかりやすくするために、表現を一部簡略化しています。(保険の募集人を「営業マン」と表現するなど。)

  金融庁、保険ショップの手数料調査 販売手法を是正へ
金融庁は、複数の保険会社の商品を取り扱う保険の乗り合い代理店(保険ショップ)の実態調査に乗り出した。勧める商品が販売手数料の高い商品に偏っているとの批判があるためだ。契約者が払う保険料のうち、販売手数料をいくら受け取っているのか、月内に報告するように求めた。販売手数料が高すぎ、販売にひずみがあれば、是正を求める考えだ。

金融庁は9月中旬、保険会社を通じて、代理店に販売手数料の水準などの提出を要請した。対象になった代理店は数十社あるとみられる。必要に応じて、個別に聞き取り調査を実施する。

具体的には、代理店が販売した個々の商品の保険料率はいくらで、それぞれどれぐらい売れて、販売手数料の総額はいくらだったのか、時系列で示すように求めた。特定の保険会社の特定の保険を集中販売している場合、どのように推奨商品を決めたかを示す資料の提出も求めた。手数料を稼ぐ目的で、特定の保険会社の特定の商品を契約者に勧める傾向にないかを確認する狙いがある。

保険には手数料の開示義務がなく、契約者に実態が分かりにくい。自主的に販売手数料を開示しているのは新興のライフネット生命保険くらいとみられる。同社は月額保険料の7.5%を最長5年間、代理店に支払っている。販売手数料は保険会社によって違い、複数の業界関係者によると、「初年度は年間保険料の半分から同額を支払う保険会社もある」という。

保険販売は従来、女性営業員が自社商品を販売するのが主流で、顧客ニーズより自社の営業戦略が優先するとの批判があった。一方、30~50社の保険会社の商品を扱う乗り合い代理店は「第三者の立場で最適な保険を選んでくれる」(30歳代の男性会社員)との声があがるなど存在感を増している。

最大手のほけんの窓口グループなど大手4社の店舗数は、9月末時点で約1050店にのぼる。米調査会社のセレントの調べでは、2009年末時点で226店で約5年間で5倍近くなった。

だが、代理店は保険会社から受け取る販売手数料が収入源で、手数料の高い保険を勧めているのではないかという指摘も一部で出始めている。

保険販売の手数料開示を求める声もある。12年から13年にかけて開いた金融審議会では業界の反対が強く見送られたが、金融庁は調査で実態を把握し、「必要に応じて行政対応を検討する」(金融庁幹部)構えだ。

(2014/10/26 日経新聞)

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