国会議員の育休は本当に不公平なのか?(シェアーズカフェオンライン)

自民党の宮崎謙介衆議院議員が、来年の国会開会中に育児のため休暇を取ると表明したことを受けて、政界を中心に議論が巻き起こっています。

自民党の若手議員が、来年の国会開会中に育児のための休暇を取りたいという考えを示したことを巡り、政府・与党内からは賛否両論が出ていて、年明け以降も議論が続きそうです。

~中略~

政府・与党内からは「政府が、男性の育児参加の促進に力を入れるなか、国会議員が率先するのは大事だ」、「企業での男性による育児休暇の取得率の向上にもつながる」などと、評価する意見が出ています。

一方で、「選挙で選ばれ、国政に責任を負う国会議員は、他の職業とは異なり十分な検討が必要だ」として慎重な対応を求める声や、「迷惑をかけないように、良識的な判断をしてほしい」といった声も出ていて、年明け以降も議論が続きそうです。

(NHKニュース 国会議員の育休巡り賛否両論 議論続く 2015/12/27)

■国会議員には育休がない
議論の原因は、国会議員と会社員や公務員とでは育児休業(育休)のしくみも位置づけも全く違うことにあります。国会議員にはそもそも育休の定めがありません。また、それゆえ議会を欠席しても議員報酬が減額されることはありません。これを不公平だとして、宮崎議員の育休取得を批判する声が多数挙がっています。国会議員の議員報酬が、税金を財源としていることも、国民感情を刺激しているようです。

しかし、国会議員に育休を取得させることは、本当に不公平なのでしょうか。収入や育児における体制を通して、これを検証してみたいと思います。

■国会議員の年収は約4,000万円
国会議員のおもな収入は「歳費」と呼ばれる報酬で、その額は法律により月額129.4万円と定められています。このほかに、「文書通信交通滞在費」という月額100万円の手当、ボーナスにあたる「期末手当」、さらに、政党によっては数百万円から1,000万円程度の政党交付金が支給されます。

元衆議院議員公設秘書の山本陽一氏によれば、これらを合計すると、国会議員の年収は4,000万円ほどと推計されます。ここから事務所の経費や、私設秘書を雇った場合にはその人件費などを支払うので、手取りはこれよりも少なくなりますが、それでも高給取りであることに間違いはありません。

ところで、税金から報酬を受け取っているのは、公務員も同じです。国家公務員の場合は、職種・勤続年数などに応じた給与が決まっています。行政の仕事に従事している人(行政職(一))の平均給与は、基本給にあたる俸給部分で月額33.5万円、各種手当を含めて月額約40万円です。階級が高くなれば収入も上がりますが、平均年収は約660万円。30代~40代で育休を取得する子育て世代なら、これより低い可能性もあります。

■育休中も、国会議員には満額支給
収入の差は、育休中にも顕著に表れます。国会議員の場合、育休中の議員報酬の取り扱いが整備されていないため、報酬は満額支給されます。

対して国家公務員には育休中の給与は支給されません。ボーナスも、査定の基準日以前6ヶ月の勤務期間に応じて調整されますから、育休を取った分は減額されます。これらの収入減を補うのが、育児休業給付金です。一般的な会社員などと同様に、休業期間が180日に達するまでは67%、それ以降で子どもが1歳になるまでは((配偶者が育児休業をしている場合は1歳2か月まで、保育所に入所できない場合等は1歳6か月まで)50%支給されます。

こうした制度の違いに配慮して、冒頭の宮崎議員は議員報酬の国庫返納を検討したといいます。しかし、公職選挙法上の違反にあたるため、次のように述べています。

そこで、今現在考えているのは寄付先を選挙区以外の事業所で活動をされている福祉団体等に歳費の33%分(現行制度では等しく67%分が支給されます。100%-67%で33%という計算になります)を寄付しようと検討しています。(このケースでは公選法の違反になりません)

(衆議院議員宮崎けんすけブログ 国会議員の育休と歳費について 2015/12/26)

■育児をしながら仕事をする体制にも大きな違い
育休や、育児をしながらの就労の制度にも大きな違いがあります。まず、国会議員にはそもそも育児休業の制度がありません。国会の会期中に育児に専念するなら、議長に欠席届を出して、事実上の育休を取得することになります。ただ、育休制度がない分、長期の休業をするのは現実的には厳しいようです。宮崎議員が希望している休業期間は約1~2ヶ月ですし、出産する妻の金子恵美衆院議員も、3ヶ月の休業後は復帰するとしています。

まだ首が座るか座らないかで、昼夜を問わず何度も起きて授乳が必要な生後3ヶ月の赤ちゃんがいる状態で復帰するのは、子どもにとっても親にとっても決して簡単なことではありません。しかも、国会議員には時短勤務の制度もありません。復帰すれば産前と同じパフォーマンスが求められるでしょうから、そのためには相当な準備と覚悟が必要です。

一方で国家公務員は、子どもが3歳になるまで育休を取得できます。夫婦が同時に休業することも可能です。原則として子どもが1歳になると育休手当は支給されませんが、保育所に入れない場合には1歳6ヶ月まで延長できます。育休中は、国家公務員の公的年金・健康保険である共済の掛け金が免除されます。復帰した後には、子どもが小学生になるまでは時短勤務や、就業時間中に所定の範囲内で保育・育児のための時間を取ることもできます。

育休制度がないという点では、国会議員の置かれている状況はむしろ自営業の人に近いといえます。加入する社会保障も原則国民年金、国民健康保険であり、これらには育休中の免除がない点でも共通しています。ただし、自営業の人は休業すれば収入がゼロになります。

このように、国会議員と一般の国民とでは、育児の条件にかなりの違いがあります。数少ない共通点としては、子どもが中学生になるまで、1人あたり1万円から15,000円が国から支給される児童手当が挙げられます。ただ、国会議員の収入では所得制限に該当し、支給額は5,000円になります。国の制度であっても、国会議員と一般的な国民では、そのインパクトが違うのです。

■国民の子育て支援のためにも、国会議員の子育て体制を整えよ
つまり、国会議員が育児を行う環境は、国民とはあまりにもかけ離れているわけです。これを不公平といえば、確かに不公平です。しかし、こうした国民との乖離にもかかわらず、国民のために1億総活躍社会および子育て支援政策のかじ取りを進めていかねばならない国会議員の立場にも、それなりの厳しさがあるはずです。

今回の問題は、宮崎議員が育休を取ること、報酬を受け取ることによる不公平よりも、政策立案者が国民の視点に立てないことにあるのではないでしょうか。

国会議員には十分な議員報酬があるわけですから、育休など取らずにベビーシッターを雇い、育児を人に任せることはできます。しかし、それで子育て世代の国民のニーズを十分に理解できるでしょうか。国会議員自らがリアルな育児を体験し、それを政策に反映し、国民の賛同を得ることを目指すなら、国民の視点を共有できる方法で育児をすべきです。

そのためには、願わくば1,2ヶ月の育休だけではなく、育児へのかかわり方、育児をしながらの仕事のしかたをより深く検討し、よりよい方法を模索していく必要があります。

宮崎議員は今回の育休を、「地に足のついた政策の立案」につなげていきたいと述べています。そして、子育て中のほかの自民党議員とともに勉強会を発足させ、育児の体制づくりに向けて衆議院規則の改正を求めていく方針です。

育休取得の是非を問う議論は、年明け以降も続くとみられます。賛否両論に分かれている意見はいずれも正しい点が多く、結論をつけるのは極めて難しい問題です。しかし、2月に生まれる予定の宮崎議員のお子さんはじめ、これからの子育て支援政策を担う国会議員の子どもたちへ、本当に「地に足のついた子育て」を体現するなら、育休取得の是非よりも、国会議員が育児をする体制づくりのほうに、より議論の軸を置くことが望まれます。

それが、子育てをする国会議員だけではなく、長期的には多くの子育て世帯のメリットになるはずです。

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マネーステップオフィス編集部
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