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2025年6月、年金制度の改正法案が衆参両議院で可決、成立しました。基礎年金の給付水準底上げや、被用者保険の適用拡大などが盛り込まれています。
基礎年金の給付水準底上げ マクロ経済スライド調整での給付抑制終了措置を盛り込む
改正案では、基礎年金の給付水準底上げが明記されました。
年金制度には、会社員などが加入している厚生年金と、パートやフリーランスが加入している基礎年金があります。女性の社会進出が進んだことなどから、会社勤めをする人が多くなり、若い世代ほど厚生年金の加入期間が長くなる傾向があります。この傾向は社会保険の適用拡大によって、さらに加速する見通しです。
しかし一方で、65歳で受け取る老齢年金と現役世代の手取り額を比較した際の所得代替率について、基礎年金が担う割合が減少していくと試算されています。基礎年金の比率減少により、所得に応じた負担を求められる公的年金の所得再分配機能が低下するなどの問題点が指摘されていました。
年金財源は5年に1回、財政検証が行われることになっています。次回2029年の財政検証にて、基礎年金の給付水準低下が見込まれる場合には、給付水準の引き上げが実施される見通しです。
老齢基礎年金の給付水準低下が見込まれる場合には、賃金や物価の上昇に合わせて年金の給付を抑制するマクロ経済スライド調整を基礎年金・厚生年金同時に終了する措置を講じることとしています。今回、年金財政の安定化のためには基礎年金の給付水準底上げが必要とされたことで、マクロ経済スライドの調整終了に関する法改正案が盛り込まれました。
被用者保険の適用拡大 106万円の壁が撤廃の方針
厚生年金や健康保険などの社会保険については、加入対象となる適用範囲が拡大されます。
これまで、パートやアルバイトなどの短時間労働者の社会保険加入要件には、給与が月額8.8万円以上であるという、いわゆる「106万円の壁」が含まれていました。今回の改正により、この要件が撤廃されます。
また、現在は51人以上の企業に勤める人が対象となっていますが、この規模要件についても2027年以降、10年間かけて段階的に撤廃される予定です。
ほかに、常時5人以上の人を雇っている個人事業所では農業や林業など一部業種は社会保険対象外とされていましたが、2029年10月時点以降に新規開業する事務所は原則として対象になります。それまでに存在する事業所には経過措置として、当分の間対象外の状態が続きます。
在職老齢年金 支給停止額基準額が50万円→62万円へ引き上げ
働く高齢者が、働きながら年金を受け取りやすくなる見直しも行われます。
在職老齢年金とは、70歳未満の人が就職により厚生年金に加入すると、受け取っている給与額と年金額の合計が50万円以上になった場合、年金の一部または全額の支給が停止されるという仕組みです。このしくみによって、働く高齢者の働き控えによる影響が一部業界で出ているとされていることから、支給停止の基準額が2026年度から50万円→62万円に引き上げられます。
<出典URL>
厚生労働省「年金制度改正法が成立しました」
厚生労働省「将来の公的年金の財政見通し(財政検証)」
厚生労働省「[年金制度の仕組みと考え方]」
厚生労働省「所得代替率と年金の実質価値」
日本年金機構「マクロ経済スライド」