35国を対象に2030年までにどれだけ寿命が延びるかを調査した結果が、世界的に権威ある医学誌「Lancet」に発表されました。35か国全てで、少なくとも女性は65%、男性は85%の確率で2030年までに寿命は増加すると予測されました。結果の概要を解説します。
韓国の寿命が世界一に、日本は停滞
今までも死亡率や平均寿命に関する研究はされてきたものの、使用する予測モデルによって結果が異なっていました。今回の調査では、モデルの不確実性を考慮した Bayesian Model Averaging(BMA)と呼ばれる手法(現在気候予測などに用いられているもの)を用いて21の予測モデルを統合して分析したというもの。
その結果、35か国全てで、少なくとも女性は65%、男性は85%の確率で2030年までに寿命は増加すると予測されました。
【女性】
その中でも特に韓国女性の寿命は、90%の確率で86.7歳以上に(2012年時点での世界中での寿命の最長)、そして57%の確率で90歳以上になり、韓国に次いでフランス、スペイン、日本が長いことがわかりました。
【男性】
男性の平均寿命に関しては、韓国、オーストラリア、スイスにおいて、2030年には95%以上の確率で80歳以上、そして27%以上の確率で、85歳を超えることがわかりました。
【日本の寿命】
アメリカ、日本、スウェーデン、ギリシャ、マケドニア、セルビアは男女両方において寿命の延びが短くなるとのこと。日本人女性は現在1位ですが、2030年までに35%の確率で寿命は停滞もしくは短縮し、22%の確率で第1位を保持、11%の確率で第2位になることも報告されています。
アメリカは平均寿命が短い
一方、アメリカにおける平均寿命は短く、既に高収入の国のなかで最も低いことがわかりました。2030年には、さらに悪化すると予測され、男性ではチェコ、女性ではクロアチアやメキシコと同様の寿命になると予測されています。また、高収入の国の中で母子の死亡率、殺人率、BMIが最も高いことも指摘されています。
寿命の変化の理由と構造の変化
韓国での寿命が延びることに関しては、過去の日本でみられたように、感染症による死亡の減少が理由に挙げられています。また、近年の延命においては、慢性疾患による死亡が引き伸ばされていることによることが最も大きな理由としても挙げられています。
これは経済状況、教育を含めたソーシャルキャピタルによって栄養状態が改善されたこと、一次的と二次的医療へのアクセスがしやすくなったこと、医療技術の発展などが影響していると考えられます。
また、韓国は西洋諸国の中で最もBMIと血圧が低く、女性においては喫煙率も低く維持しており、西洋諸国に比べて健康格差が小さいことも理由にあるかもしれないと考察されています。
一方で、若年層の死亡が多く、慢性疾患のリスク要因が多い国において平均寿命が低く、これらの国では社会格差が大きい傾向にあり、低い層の社会的集団の不健康さによって全体の平均寿命が短くなっていることが考えられると述べられています。
また、メキシコ以外の全ての国で、女性の寿命が男性の寿命を上回る構造は減り、男性の寿命よりも女性の寿命が増加すると予測される国は減少することも大きな変化となりそうです。
今後、予想外のイベントや健康を左右する社会的、技術的、医療制度の変化を考慮したうえでの分析を行うことも課題とされています。
【論文】
Kontis V, Bennett JE, Mathers CD, Li G, Foreman K, Ezzati M. Future life expectancy in 35 industrialised countries: projections with a Bayesian model ensemble. Lancet. 2017; 389: 1323-1335.
執筆者プロフィール
朴沢広子(ほうざわひろこ)
栄養士、慶應義塾大学院健康マネジメント研究科スポーツマネジメント専修博士課程在籍、慶應義塾大学スポーツ医学研究センター研究員。同大学健康マネジメント研究科修士課程修了後、女子栄養大学にて栄養士を取得。現在、中小企業の勤労者の健康状態、健康行動について研究している。忙しい毎日の中で実践できる、より楽しく、健康的な食事の提案に努めている。
投稿者プロフィール
- お金と健康に関する記事・コンテンツ制作実績1万本以上。ファイナンシャル・プランナー(FP)を中心とした専門家による、家計、ライフプラン、保険など、幅広い生活とお金のコンテンツ制作を行っています。