トランス脂肪酸については様々な情報がありますが、上手に付き合っていくにはどうすればよいのでしょうか?トランス脂肪酸の問題や国内外での対応も含めて知っておきましょう。
トランス脂肪酸とは
不飽和脂肪酸はその構造(炭素の二重結合と水素原子の付き方)によって「シス型」と「トランス型」に分けられます。天然に存在する不飽和脂肪酸のほとんどがシス型ですが、一部の天然の食品および加工された油脂はトランス型が含まれる脂肪酸を「トランス脂肪酸」と呼びます。
具体的には、天然の食品では牛肉や羊肉の脂肪や乳脂肪には微量に含まれています。牛や羊(反芻動物)の胃の中に存在する微生物によってトランス脂肪酸が作られます。その他、マーガリンやショートニングの製造過程で、液体の油脂を水素添加して、油脂を硬くする際にトランス脂肪酸が作られるのです。
トランス脂肪酸の問題点
脂質自体は身体にとって大事な栄養素の一つなので、適度に摂ることが望ましいですが、トランス脂肪酸については摂ることによる健康への被害が報告されています。
過去の数々の研究により、トランス脂肪酸の摂取量が多いと血中LDLコレステロールが増加し、HDLコレステロールが減少、心筋梗塞や狭心症などの冠動脈疾患のリスクが高まることが示されています*1,2,3。
海外での規制と日本での対応
WHOでは目標として、トランス脂肪酸の摂取を総エネルギー比1%未満に抑えるよう提示しています。また、アメリカを中心にトランス脂肪酸の規制を進めており、FDA(アメリカ食品医薬品局)は2018年6月以降に食品への添加を原則として禁止することを発表しました。
その他デンマークやスイスなどでも規制が進められていますが、日本では規制はされていない現状です。
規制されるべきという議論も挙がっていますが、そもそもアメリカ人と日本人ではトランス脂肪酸の摂取量が大きく異なり、食品安全委員会「食品中に含まれるトランス脂肪酸」評価書によるとアメリカは一日平均2.2%であるのに対して、日本は平均0.3%であり、WHOの目標値を下回っていると報告されています。農林水産省及び食品安全委員会の見解としては、脂質の摂りすぎ自体も問題であり、WHOの目標値を下回っている日本人はトランス脂肪酸だけに着目するのではなく、脂質そのものや塩分を控えることを優先すべきとしています。
トランス脂肪酸とどのように付き合っていけばよいか
規制がかかっていない日本においては、脂質を摂りすぎている食生活の場合も多く、まずはバランスのよい食事を目指すことが重要でもあります。また、私たち一人ひとりがトランス脂肪酸が何か、何が身体に悪いのか、何に含まれているのかを理解し、まずは摂りすぎないように日々の食生活の中で心掛けることが大切ではないでしょうか。
■マーガリンやショートニングが多く含まれる食品
スナック菓子、洋菓子、ポップコーン、カップ麺、菓子パン、ファーストフード、揚げ物など
※参照:
*1 van de Vijver LP et al.: Association between trans fatty acid intake and cardiovascular risk factors in Europe: the TRANSFAIR study. Eur J Clin Nutr 2000; 54(2): 126-135 105
*2 Lemaitre RN et al.: Plasma phospholipid trans fatty acids, fatal ischemic heart disease, and sudden cardiac death in older adults: the cardiovascular health study. Circulation 2006; 114(3): 209-215
*3 Baylin A et al.: High 18:2 trans-fatty acids in adipose tissue are associated with increased risk of nonfatal acute myocardial infarction in costa rican adults. J Nutr 2003; 133(4): 1186-1191
・WHOによるトランス脂肪酸に関する情報
http://www.who.int/nutrition/topics/trans_fatty_acids/en/
・FDAによる規制に関する情報
http://www.fda.gov/NewsEvents/Newsroom/PressAnnouncements/ucm451237.htm
・農林水産省「トランス脂肪酸に関する情報」
http://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/trans_fat/index.html
・内閣府 食品安全委員会「食品に含まれるトランス脂肪酸の食品健康影響評価の状況について」」
http://www.fsc.go.jp/osirase/trans_fat.html
執筆者プロフィール
朴沢広子(ほうざわひろこ)
栄養士、慶應義塾大学院健康マネジメント研究科スポーツマネジメント専修博士課程在籍、慶應義塾大学スポーツ医学研究センター研究員。同大学健康マネジメント研究科修士課程修了後、女子栄養大学にて栄養士を取得。現在、中小企業の勤労者の健康状態、健康行動について研究している。忙しい毎日の中で実践できる、より楽しく、健康的な食事の提案に努めている。
投稿者プロフィール
- お金と健康に関する記事・コンテンツ制作実績1万本以上。ファイナンシャル・プランナー(FP)を中心とした専門家による、家計、ライフプラン、保険など、幅広い生活とお金のコンテンツ制作を行っています。