昨日、内閣府大臣補佐官でマイナンバー担当である福田峰之氏が、twitter上で国民からのマイナンバーに関する質問に答える企画を実施しました。そのなかで、預金口座へのマイナンバー登録を義務化する時期について質問がありました(#マイナンバー質問)。
年金情報の流出問題以来、マイナンバーをめぐってはもっぱら個人情報漏えいのリスクが注目されていますが、最近は私のところにも、マイナンバーと預金についてこんな質問が多く寄せられます。
「マイナンバー制度が始まったら、預金にも税金がかかるのですか?」
今回は、現状で明らかになっている情報をもとに、これを検証してみたいと思います。
マイナンバーは税金・社会保障・災害対策に使われる
2016年1月から制度開始が予定されているマイナンバー(社会保障・税番号)制度。すでにご存じの方も多いでしょうが、1人1つずつ付与される番号「マイナンバー」によって、社会保障、税、災害対策の分野で関係機関が保有する個人情報を効率的に管理するものです。
公的年金、健康保険、パスポート、運転免許証、雇用保険などでそれぞれ付与されている番号が、「マイナンバー」によってひもづけられます。今年の10月には住民票のある自治体から12桁のマイナンバーが通知される予定です。
マイナンバーを使うのは、確定申告、児童手当を受け取るとき、国民年金や厚生年金を受け取るときなどです。会社員・公務員の方は源泉徴収、年末調整のためにお勤め先にマイナンバーを伝えることになります。そのほか、株式投資などで特定口座を開くときには証券会社へ、保険金・給付金を受け取るときには保険会社で提示を求められます。
改正案先送りで、預金へのマイナンバー導入はない?
先月に衆議院を通過したマイナンバー法改正案では、2018年から銀行の預金口座にもマイナンバー制度を適用することが盛り込まれていました。
マイナンバーで預金口座がひもづけられると、複数の金融機関に分かれている預金の情報をまとめられます。これを活用して、個人の資産に課税する「貯蓄税・富裕税」などの案を、一部の政治家が打ち出し、4月にはテレビ番組が取り上げたことで大きな反響を呼びました。「自分の預金に税金がかかったらどうしよう?」という相談が増えたのも、この頃です。
しかし参議院での成立を前に日本年金機構の情報流出問題が起きたため、改正案の会期内での成立は厳しくなりました。
とはいえ、各機関でサイバー攻撃への対策が一段落したら、再びマイナンバー法の改正案が審議されるでしょう。いずれは、預金にマイナンバー制度が導入されるのは避けられないと思います。
冒頭の福田峰之氏も、twitterで次のように述べています。
預金口座については、まず任意でスタートさせて頂きます。その上で、国民の皆さんのご理解を頂ければ、将来、義務化に向けての議論を行うことも考えられます (2015/6/25 @fukudamineyuki)
預金に税金がかかる日はくるのか?
であれば、預金への課税も始まるのでしょうか?
個人的には、「ない」と思います。
預金に課税することになれば、資産隠しが始まるだけだからです。タンス預金にしたり、課税されないほかの金融商品を買ったり、海外の銀行に移転したり、人々はあらゆる方法を使って税金逃れをするでしょう。また、そもそも預金には利子に20%の税金がかかります。残高にも課税されれば、二重課税になるとの指摘もあります。
一方で、格差是正のためには金融資産に課税すべきという専門家の意見もあり、預金に限らず広く資産に税金をかける案もあります。しかし、どこまでを課税対象にするかをめぐって各界の対立が起こることは想像に難くありません。
現状から考えると、預金への新たな課税は当面ないと思います。
心配すべきは預金への税金よりも贈与税
むしろ、マイナンバーによって先に影響を受けるのは、預金よりも贈与だと思います。
贈与税をめぐっては、昨年から相次いで導入された2つの特例から、国民の資金の流れを把握したい国の思惑がうかがえるからです。
「教育資金の一括贈与に係る贈与税非課税措置」という特例では、祖父母、父母などから、30歳未満の孫、子どもなどへ教育資金を贈与した場合に、受け取る人1人につき1,500万円まで贈与税が非課税になります。また「結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置」では、祖父母や両親が20歳以上50歳未満の子や孫に、結婚や子育てのための資金を贈与する場合には、子や孫ごとに1,000万円まで(うち結婚に関わるものは300万円まで)、贈与税がかかりません。
ただしいずれの制度も、誰が何のためにいくらお金を使っているかを厳密に管理しなければなりません。贈与する人はまず信託銀行に資金を一括で信託しなければならず、贈与を受ける子ども・孫は自由にお金を引き出せません。お金を受け取るには、先に立て替えてから領収書を銀行に提出して引き出しを請求するか、支払先に請求書を発行してもらって、銀行から直接払ってもらうなどの手続きが必要です。子や孫にお金を渡して、自由に使ってもらうことはできないわけです。
振込での贈与は贈与税がかかりやすくなるかも
一方で、贈与税には年間110万円という基礎控除があり、その範囲内であれば人からお金を受け取っても贈与税はかかりません。現金を手渡しても、モノを渡しても、振込でもかまいません。また、誰にいくら贈与をしたかを記録に残す義務もありません。贈与額が年間110万円を超えるかどうかの判断は原則として自己申告に任されています。
ところがマイナンバーが預金口座にひもづけば、振込であれば誰から誰にいくらのお金が流れたかが一目瞭然になります。すると、贈与税の申告漏れを指摘される可能性が高くなると考えられます。
たとえば年間110万円の基礎控除内であっても、毎年100万円ずつなど決まった金額を子どもや孫に贈与をすると、「はじめから1,000万円を贈与するつもりだったものを、10年に分けて渡しているだけ」とみなされ、1,000万円の贈与に対して課税されます。これは現行の税制でも適用されますが、贈与をする人、受け取る人それぞれに複数の預金口座があるなど、さまざまなルートでお金の受け渡しがされていると、年間110万円を超えるかどうかを確認するのは面倒です。
しかし預金口座にマイナンバーがひもづけば、1人が持っている複数の口座情報を1つの番号で確認できます。贈与が適正に行われているか、税務当局がチェックしやすくなるのです。「今までは毎年100万円子どもに振り込んでも何も言われなかったから」と、贈与を繰り返して申告せずにいると、後でお咎めがくるおそれもあります。振込みに限らず、贈与をするときにはその日付と金額を変えたり、使い道をあらかじめ決めて贈与契約を結び、明記しておくなど対策をしておくと安心です。
マイナンバーが預金に導入されるのかどうか、また将来、預金残高に税金がかかることになるのかどうかは、今後の審議しだいです。ただ、お金の動きを税務当局が確認しやすくなる流れは、今後確実にくるでしょう。
参考記事
■中小企業のマイナンバー対応における5つのポイント|使えるチェックリスト付き 経営ハッカー by freee
■「マイナンバー制度」を使った海外の確定申告制度 カイケイ・ネット