先日の御嶽山の噴火では、多くの方が被害に遭われました。そんななか、生命保険各社が、保険に契約している被災者へ災害に関わる保険金を支払うことになりました。実はこれ、特別な措置です。本来は、噴火の被害に遭っても、災害の保険金は受け取れないことになっているのです。災害の保険は、いざ被害にあっても使えないことがあります。今回は、災害で受け取る生命保険の注意点をお伝えします。
噴火は自然災害なのに、災害の保険金がおりない
このたびの御嶽山噴火により被災された皆さまに心よりお見舞い申し上げます。行方不明になっている方が一日も早く救出されることを祈るばかりです。
今回、生命保険会社各社が支払うことにしたのは、御嶽山の噴火により被災された方のうち、災害への保障をつけていた生命保険の保険金です。生命保険には、災害によって亡くなったり、けがをして入院をしたりといった場合に、通常の保険金に上乗せして保険金などを受取れる特約があります。「災害割増保険金」「災害高度障害保険金」「災害入院特約」などと呼ばれる特約です。ここでは、これらをまとめて「災害割増特約」と呼びます。
たとえば「病気で亡くなった時には保険金が1,000万円おりるけれど、災害で亡くなった時には2,000万円おりる」といったしくみになっています。「災害入院特約」は、同じように災害によってけがをして入院をしたときに、普通の「入院給付金」とは別に給付金がおりるものです。
ここでいう「災害」には、交通事故、薬品等による中毒、自然災害や火災による事故などが含まれます。ところが、ほとんどの保険会社では通常、地震、噴火、津波、戦争などは対象外です。火山の噴火で亡くなったとしても、通常の死亡保険金はおりるものの、災害による上乗せ分はおりないのです。これは、地震や噴火、津波、戦争では被害が大規模になりやすく、保険金を支払わなければならない人があまりにも多いと、保険会社が潰れてしまう恐れがあるためです。
割増分は、保険金として期待しない方がよい
災害割増特約は、掛け金が比較的安いので、生命保険を契約するときに一緒に入る人が多いです。たとえば、ネット生保のアクサダイレクト生命の場合、30歳男性が2,000万円の掛け捨ての保険(10年定期)に入ると、1ヶ月のかけ金は2,230円です。かけ金を380円プラスすると、ここに1,000万円の災害死亡・災害高度障害保険金をつけることができます。
保険のご相談にくるお客様にこのようにご案内すると、多くの方は「月300円くらいで、保険金が2,000万円から3,000万円になるなら、一応つけておこうかな」とおっしゃいます。
ただしここで注意しないといけないのは、これは保険金がいつでも3,000万円受取れるわけではない、ということです。3,000万円受け取れるのは、あくまでも災害によって亡くなったときだけです。しかも、地震や噴火では原則として災害割増分は受け取れません。
ところが、災害割増特約をつけると、無意識のうちに割増分も受け取れるつもりになってしまう人がいます。保険の見直しに来て、今の保険の内容をたずねたときに、「事故なら4,000万円、病気なら2,000万円おります。」とか、「3,000万円の保険で、病気が原因だと2,000万円みたいです。」などと答える人です。そういう人は、たいてい保険の備えが十分ではありません。災害割増分を含めれば遺されるご家族が暮らしていけるけれど、通常の保険金だけでは足りなさそうなのです。
厚生労働省「人口動態統計(平成24年)」によると、日本人の死因の64.1%は病気によるものです。これに対して、災害や事故によるものは5.8%にすぎません。この数字をみると、災害割増分の保険金を受け取る確率は極めて低いことがわかるはずです。ですから、保険を考えるときには、災害割増分はおまけ程度に捉えておいた方が良いでしょう。いざという時に受け取りたい保険金の金額は、基本的な保険金の部分で決めるべきです。
噴火でも、災害割増特約が使えることがある
とはいえ、災害割増特約は全く使えないわけではありません。万が一交通事故や台風、火災などに遭ったときには、上乗せされた保険金を受け取れます。また、本来は割増の対象外としている地震や噴火についても、実際に災害が起きた時には、保険会社が特別に支払を決定しているケースが多いのです。冒頭にご紹介した御嶽山噴火や、東日本大震災などがその代表です。
もし災害に見舞われたら、自分や家族の救出や治療、生活の再建などに大きなお金がかかります。仕事や収入を失うこともあります。その身体的、経済的、精神的なダメージは、保険金を受け取っても消えるわけではありません。であれば、せめて、そんな被害者の方の経済的な負担を軽くすること。それが、災害割増保険金の意味だと思います。
今回、噴火の被害にあわれた方に割増保険金が払われることで、少しでも助けになることを祈るばかりです。保険会社には、これからもより多くの災害で割増保険金を出せるよう、ゆとりのある財務体質を維持していって欲しいと願ってやみません。
一方で、わたしたちが日頃からできることは、とにかく保険のことをよく理解して契約することです。ただでさえ不幸にして災害に見舞われてしまったうえに、思ったよりも保険金が受け取れなかったとなれば、まさに泣きっ面に蜂です。
自然災害を防ぐことはできませんが、いつ、どんなときに保険をいくら受取れるのかをよく理解しておけば、いざというときに期待外れだった、というショックは受けずにすみます。
「災害割増特約」は、いつでも保険金が上乗せされるものではありません。そして、災害にあっても、割増分を受け取れないケースがあることをよく覚えておきましょう。
参照先:生命保険協会
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