【コラム】カード払いでつい使いすぎる理由

先月マイナビニュースにて、コンビニでの支払いで現金払いをメインにする人が37.9%と最も多いという調査結果が発表されました。また、現金をメインで使う理由として、「利用金額が把握しづらい」「無駄遣いを防ぐため」を挙げる現金派に対して、インターネット上では批判的な意見も目立ちました。(出典:コンビニの支払い、4割が現金派 – 電子マネーやクレカを使わない理由は? マイナビニュース2017/08/18)

現金は使った実感が強い?

電子マネーやクレジットカードなどで買い物をしても、多くの場合は各カードの発行会社に会員登録をしておくと、ウェブ上から利用履歴をすぐに確認できます。パソコンやスマートフォンの家計簿ソフト・アプリを使えば、複数のカードの利用状況を一元的に管理でき、それらの支出合計額を表示させることもできます。その便利さに、筆者も今では生活上の出費の大部分を、クレジットカードや電子マネーなどでのカード払いに頼っています。

ただ使い過ぎを防ぐ観点では、現金には電子マネーやクレジットカードなどによるキャッシュレス決済にはない強みがあるとも思います。キャッシュレスだとつい見過ごしがちな「使った実感」が、現金払いでは得られやすいと思うのです。

※「カード払い」というとクレジットカード払いのみを指すこともありますが、本稿ではプリペイドカードや電子マネーなど、カードの形態を用いた支払い方法を「カード払い」と表します。また、現金の手渡しが不要な決済方法のことを「キャッシュレス決済」と表します。

身銭を切る感覚が薄いと使いすぎる?

先日ある観光地を訪れたときのこと。有名レストランや土産物店が立ち並ぶその町では、電子マネーやクレジットカード、プリペイドカードなどをほとんど使えませんでした。日頃キャッシュレスに慣れ切っていると、648円、2,138円のような会計で小銭をお財布から取り出すのはなかなかに面倒と感じてしまいました。

しかし、あちこちを観光しているうちに、10枚あったはずの千円札が1枚になったと気づいた瞬間に、思わずぎょっとしました。「まずい!こんなに使ってしまった!」と直感的に思ったのです。

日頃、家計簿ソフトやアプリを使って家計管理をしているときも、支出額や資産残高の数字を見ながら「ああ、今月は結構使ったな」と感じたり、「そろそろ抑えよう」と使い過ぎをコントロールしたりしているつもりでした。でも久々に見た、お財布にあったはずの現金がない光景を見ると、より強烈に使った実感がわいてきました。使った金額を冷静に計算すると、他のレジャーの時より特段に高額なわけでもありませんでしたが、なんだかいつも以上に身銭を切った感覚がしました。この「実感」は、使いすぎないためには大きな役割を果たすのでは、と感じさせられました。

カードのなかにもクレジットカードやプリペイドカード、電子マネーなどさまざまな形があり、決済のしくみやお金の流れは違います。その違いにかかわらず、これらカード型の支払い方法だとなんだか使いすぎてしまうときは、身銭を切ってお金を使った実感が薄れているかもしれません。

もちろん、現金払いでもムダ遣いをしがちな人はいますし、カードなどを使ったキャッシュレス払いでもしっかりコントロールできる人もたくさんいます。むしろ、自動的に利用履歴が残るキャッシュレスのほうがうまくいく人もいます。ですから、カード払いだから使いすぎるというわけではないでしょう。

ただ、数字で「使い過ぎ」を理性的に理解することと、身銭を切って「使い過ぎ」を実感することは意味が違います。お財布の中で少なくなった現金に「ぎょっとする感覚」は、どこか久しぶりに履いたズボンのファスナーが閉まらなかったときに似ています。ウエストサイズを計ったら前よりも3センチ増えていたと知る瞬間もショックではありますが、履けるはずのズボンが履けないという経験そのもののショックはより絶大です。

現実を直視せずにいると使いすぎる?

お金を使った現実を直視しやすい環境かどうかも、出費のコントロールには重要でしょう。

お気に入りのズボンを履こうとしたら履けない状況は、体型が変わった現実に嫌でも向き合わせます。しかしウエストのサイズは、健康診断の時くらいしか測らない人も多いはずです。自分のウエストが何センチか、数字を知らなくても生活できてしまいます。

お金の面でも、現金払いは買い物をするたびに財布を開けて中に入っているお札や硬貨の残量を見て、その一部を相手に手渡す必要がありますから、お金が減る現実に嫌でも直面します。これに対してキャッシュレスは、決済の瞬間には金額の数字こそ確認するものの、現金払いに比べると残高や出費額の「大きさ」は実感しにくいでしょう。

後で銀行口座の通帳記帳をしたり、ネットバンキングや家計簿アプリにログインしたりすれば、出費によって残高がいくらになったのか、過去からの推移がどう変わったかわかります。しかしそのためには、自ら主体的に情報へアクセスする必要があります。現実を直視するには心理的なハードルを伴うことがあります。「現実を知るのが怖くて何年も体重計に乗っていない」という人がいるように、自ら現実に向き合おうとしなければ知らずに過ごすことができるわけです。そうするうちに、思いのほか使いすぎてしまうおそれもあります。

カードで使いすぎないために

クレジットカードの取扱高は毎年約8%~10%ずつ増加し、2016年には約54兆円にのぼり(日本クレジット協会「日本のクレジット統計 2016(平成28年)版」)、電子マネーの決済額も毎年10%以上の成長率で増加し、2016年には5兆円を超えました(日本銀行「決済動向(2017年6月)」)。またインターネットショッピングやモバイル決済、仮想通貨など、IT、金融分野での技術革新とともに、私たちのお金の使い方は多様化しています。

日常の生活費の支払いで、複数の決済方法が混在するのがもはや当たり前になってきているいま、私たち消費者には、かつて以上に各種カードを使い分け、使いこなす力が求められ、家計管理は複雑になった側面もあります。

総務省が個人家計の状況を把握するために行っている家計調査でも、手書きによる調査票の記入から、オンライン回答、スマートフォンのカメラ機能を使ったレシート読み込みによる入力、さらにFinTechを活用してキャッシュレス決済のデータを収集できるシステムへと、調査方法を変更する予定になっています。それだけ、複雑化する家計の把握にはテクノロジーが欠かせないことを示しています。

そんななかでも、身銭を切る実感を得られ、現実を直視しやすい環境に近づければ、カード払いで想定以上に使いすぎないようにできるかもしれません。

現状で取り組みやすい方法としては、たとえば電子マネーやプリペイドカードは事前に入金した残高、デビットカードは銀行口座にある残高以上には使えない仕組みです。最初にそれ以上使ってはまずい、という金額だけを残高に入れておくようにすれば、出費総額を抑えることはできます。

ただそれでは、残高がゼロになるまで気がつかないおそれがあります。その前の段階で何かしら「ぎょっと」するチャンスがあれば安心です。たとえば電子マネー用のパスケースには、ボタンを押すだけでいつでも残高を表示するものがあります。

デビットカードの多くは利用するたびに取引通知メールがくる設定にできますから、何度もメールが来れば「最近けっこう使っているな」と感覚的に把握できるでしょう。クレジットカードには、一定の利用額を超えたらアラートのメールが送信されるよう設定できるものがあります。

家計簿ソフト・アプリを使っているなら、残高や出費額を示す数字や図がわかりやすいもの、イラストなどでよりビジュアルに訴えて表示するものを選ぶのもよいと思います。

消費者の家計管理をサポートする環境づくりも大切

一方で、国や金融機関、各種カードの発行体なども、消費者が健全に使える環境整備により注力する必要があると思います。

冒頭に引用した調査では回答者の約4割が現金派だったのと対照的に、総務省の「平成26年全国消費実態調査(2人以上の世帯)」によると、1カ月の平均消費支出292,882円のうち、クレジットカードや月賦・掛買いで決済した金額は46,995円(16.0%)、電子マネーによる購入は4,283円(1.5%)にすぎないとのデータもあります。政府は「未来投資戦略2017」で、諸外国と比べても低いキャッシュレス決済の比率を今後10年間で倍増させ、4割に上げることを目指しています。

この中では、カードの決済端末の整備や加盟店負担の軽減、FinTechを活用した消費データの利活用や消費者の利便性向上が掲げられています。これらは歓迎したいところですが、どちらかというとお金を使いやすくすることに主眼が置かれている印象を受けます。ぜひそれだけでなく、お金を使う消費者自身が出費額を把握し、コントロールしやすいしくみづくりにも配慮がなされればと考えます。

これを消費者がお金を使いすぎないしくみと捉えると、カードの発行体や加盟店にとってネガティブな要素にみえるかもしれません。ですが、冒頭の調査のように「利用金額が把握しづらい」「無駄遣いを防ぐため」とカード払いに二の足を踏んでいる消費者が、安心して各種カードを利用できる環境を整えることにもなると思います。

利便性に加えて、健全な消費行動にアプローチできる仕組みが整えば、カード払い、キャッシュレス決済もより安心して使えるようになるはずです。

※この記事は、シェアーズカフェオンラインに寄稿したものです。寄稿先の許可を得て掲載しています。
カード払いでつい使いすぎる理由

【参考記事】
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