厚生労働省は、企業に有給休暇の消化を義務付ける案を提示しました。日本では忙しくて休めない、有給を取りたくても周りが休んでいないから取りにくい、といった理由で有給を使わない人が多いため、会社側から働きかけて社員を休ませるしくみを作る方針です。
日本の有休消化率は世界ワースト
会社を休んでもお給料がもらえる有給休暇は、従業員が健康に働き続けるために、毎年10日〜20日程度もらえるものです。もらった有休の範囲内であれば、働く人は自由に休みを取ることができます。しかし、日本では有休を使わずに働き続ける人が多いのが現実です。厚生労働省の調査(2013年)によると、日本の労働者には有給休暇が平均で17.9日与えられていますが、このうち実際に使ったのは平均8.6日です。取得率は48.1%と半分に満たない水準です。
これは、諸外国と比べてもワースト1位のレベルです。世界の有給休暇について調査したエクスペディア(2013年)によると、世界には有給を使うのが当たり前の国がたくさんあります。ブラジルやフランス、香港では取得率は100%、アメリカでも71%です。
有休が取れないのは、会社が指定してくれないから
日本で有休が取りづらい理由の1つが、有給休暇を取るためには社員から申し出るしくみになっていることです。有休を取るのが当たり前になっているヨーロッパでは、企業があらかじめ社員ひとりひとりに、いつ有休を取るか指定するしくみになっています。今回、厚労省はこのしくみを導入して、企業に有休消化を義務づける予定にしています。
中小企業の残業代がアップ 大企業並みの1.5倍に
日本人は勤勉だとよくいわれますが、残業が多いことでも知られています。残業のカットは大企業では対策が進んできていますが、中小企業ではまだまだ遅くまで働く人が少なくありません。その理由が、中小企業の残業代が低いことです。
現在、中小企業では残業代は通常の賃金の25%増しですが、大企業では50%増しです。厚労省は、中小企業でも月60時間を超える残業には通常の50%増しの賃金を払うように義務付けて、残業をカットするように働きかけることにしています。
実際に、厚生労働省の調査をみると、日本の有給休暇の取得率は従業員1,000人以上の企業で55.3%なのに対して、300~999人では46.0%、100~299人では44.7%、30~99人では41.8%と、規模が小さくなるにつれて低くなっています。
サービス残業が増えないか? 労務管理が課題になりそう
企業に有給の消化が義務付けられたり、中小企業の残業代がアップすると、それだけ従業員の休みが増え、残業をしにくくなります。従業員にとっては健康的に働きやすくなるように見えますが、注意することもあります。就業時間内でやるべき仕事が増えるからです。
だらだら仕事をするよりは、メリハリをつける方が効率的に仕事ができることは多いです。でも、一人の従業員に課せられている仕事が多ければ、どんなに効率的に働いても仕事が終わりません。もし、企業が有給や残業に関する制度を体面だけ守りながら、仕事の割り振り方や指示の仕方を改めなければ、従業員の負担だけが重くなってしまう恐れもあります。表面上は有給を取らせて実際は出社させたり、サービス残業を強いるケースもありえます。
今回の改革が、そういった表面上の解決にとどまらず、本当に働く人の健康ややりがい、そして生産性につながっていくことを願わずにはいられません。
参照先:厚生労働省平成23年就労条件総合調査
エクスペディア
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