103万円の壁ってなに? 税金の扶養のしくみを、CFPファイナンシャルプランナーがわかりやすく解説

ご主人の扶養に入って働いている方は、年収いくらまで働いてもよいのか、どれくらいシフトを入れてよいのかを気にしているでしょう。ですが「扶養」といったとき、そのしくみは意外と複雑です。

そこで、「扶養」のしくみを解説します。

扶養は税金と社会保険それぞれに関わる

扶養内で働いている方は、「扶養に入っておく方がお金の負担が少なくなる」ことは知っていますよね?でも、「何の」負担が少なくなるかを十分に理解している人はあまりいないかもしれません。

そもそも「扶養」というのは、どんなしくみなのでしょうか。

まず、扶養は、夫と妻それぞれについて、4種類のお金に関係しています。
■税金
(1)所得税
(2)住民税
■社会保険
(3)健康保険
(4)国民年金

かりに妻がパートなどをしていて、夫の扶養に入っている場合は、妻の年収が一定額を超えなければ、これら税金や年金、健康保険が優遇されます。

ここで大事なのは、扶養は大きく分けて税金と社会保険の2つに関係することです。そしてそれぞれで、「扶養」に入れるかどうかの要件が大きく異なります。扶養に入る人(多くのケースでは妻)の年収によって、税金と社会保険両方の扶養に入ることもできますし、社会保険だけになることもあります。また社会保険の扶養は、妻、夫それぞれの勤務先の状況によって、要件が変わることがありますが、税金の扶養は法律で定められた要件に従うため、勤務先を問わず一律です。

「扶養」のことを考えるときには、税金の扶養と、社会保険の扶養は別のものであることを知っておきましょう。

では、税金の扶養と社会保険の扶養それぞれのしくみをみてみましょう。

税金の扶養は年収103万円まで

税金の扶養は、具体的には所得税と住民税に関わります。

103万円の壁とは

専業主婦の方が働きに出るときには、よく「103万円の壁」といわれますが、これが、妻が税金の扶養に入れる最大限の妻の年収です。年収が103万円までなら、妻と夫の税金が優遇されます。

妻の年収がパート収入のみの場合、年収103万円以下であれば、妻に所得税がかかりません。これは、所得税には38万円の「基礎控除」と、最低65万円の「給与所得控除」というしくみがあるからです。

控除とは、税金の計算上で差し引けるという意味です。基礎控除と給与所得控除は「所得控除」といって、本来の収入から控除する金額を差し引いた後に、税率をかけて税額を計算します。本来の収入よりも少ない金額に対して税率をかけることで、納めるべき税額を少なくできるわけです。

基礎控除の38万円と給与所得控除の65万円を足すと、所得控除の合計額は103万円になります。年収が103万円以下であれば、所得控除の合計額103万円を差し引くと、ゼロになります。実質的な所得がゼロとみなされれば、それに税率をかけてもゼロですから、税額もゼロ。このため税金がかからないのです。

103万円の壁とは、所得税の控除を使って税金の負担をゼロにできる最大限の年収という意味なのです。

住民税は年収103万円でもかかる

実は、年収103万円なら一切税金がかからないかというと、そうではありません。住民税がかかるのです。

所得税は国に納める税金であるのに対して、住民税はお住まいの自治体におさめるもので、税率や控除のしくみも地域ごとに定められています。多くの地域では、パート収入の場合年収98万円を超えるとかかります。多くの地域の住民税の基礎控除は33万円で、所得税の基礎控除38万円より5万円低くなっています。一方で給与所得控除は所得税と同じく最低65万円です。

ですから、妻の収入がパート収入だけなら、基礎控除33万円と給与所得控除65万円を足した年収98万円までは、住民税がかかりません。

つまり年収98万円超~103万円なら、所得税はかからないものの住民税はかかることになります。

住民税は、おもに所得割額と均等割額という2種類から成ります。所得割額は、年収に税率をかけて計算した金額で、2019年現在はほとんどの自治体で10%です※1。均等割額は、基礎控除や給与所得控除を超えた所得がある人に一律にかかるものです。自治体によって異なり、たとえば東京都23区では年額5,000円、神奈川県横浜市では年額6,200円などと定められています。

住民税は、前の年の1月から12月の収入に対してかかります。扶養されていて、パート収入のみの人の場合、前年の年収が98万円を超えていれば、超えた部分に対して所得割額、また一律の均等割額がかかります。たとえば年収103万円なら、住民税の所得割の対象になるのは5万円分です。ここに均等割額を足した金額が、納めるべき税額になります。実際の納税額は自治体、納税する人の諸条件によって異なりますが、規模感としては年間で数千円程度のケースが多いです。

※1.都道府県民税部分と市区町村民税に分かれます。たとえば10%のうち、6%は市区町村民税、4%は都道府県民税で、合わせて市区町村に納税します。
※2.2019年3月現在。都道府県民税部分と市区町村民税に分かれます。東京都では特別区民税3500円と都民税1500円で、合わせて年額5000円です。神奈川県横浜市では市民税4400円、県民税1800円で、合わせて年額4400円です。
※上記以外の控除により、実際に負担する税額が異なることがあります。
※独自の税額や税率を導入している自治体では上記と異なることがあります。
※わかりやすく解説するために、一部正式な呼称をかみ砕いている部分、詳細な条件を省略している部分があります。

<参考記事>

「年収103万円まで税金がかからない」ってほんと? 間違いやすい扶養のしくみ

投稿者プロフィール

加藤梨里
加藤梨里マネーステップオフィス株式会社代表、FP
マネーステップオフィス株式会社代表、ファイナンシャル・プランナー(CFP®)、金融商品上級フェアアドバイザー、健康経営エキスパートアドバイザー、慶應義塾大学大学院健康マネジメント研究科特任助教(前)。 保険会社、信託銀行、ファイナンシャルプランナー会社を経て独立。専門は保険、ライフプラン、健康経営などに関する執筆、コンテンツ制作。大学では健康増進について研究活動を行っており、認知症予防、介護予防の観点からのライフプランの考え方、健康管理を兼ねた家計管理、健康経営に関わるコンサルティングも行う。